2024年9月18日(水)
企画展「開高健 手書き原稿の宇宙」が開催中。会期は2025年5月6日まで。
茅ヶ崎市開高健記念館では、2024年10月26日 (土)から2025年5月6日(火・祝)まで、企画展「開高健 手書き原稿の宇宙」を開催いたします。みなさまのご来館をお待ちしております。
<主な展示作品>
・初の⻑編「あかでみあ めらんこりあ」(1951)から絶筆「珠玉」(1989)に 至る主要作品の初版本と手書き原稿(部分)、家族や友人への手紙、創作メモなど30数点
・他に力強いマーカー文字が躍る色紙、何で画いたか想像もできない「オーパ!」 など単行本の表紙の題字、愛用のモンブラン万年筆などの文具
※館内では、作品のレイアウトや品目を一部変更する場合があります。
<会期/開館日等>
期間:2024年10月26日(土)〜2025年5月6日(火・祝)
開館日:毎週、金・土・日曜日の3日間と祝日
開館時間:
・4月〜10月
午前10時~午後6時00分 (最終入館は午後5時半まで)
・11月〜3月
午前10時〜午後5時00分(最終入館は午後4時半まで)
入館料:200円
※会期は変更の場合があります。最新情報は本HPにてお知らせします。
<主催・会場>
茅ヶ崎市開高健記念館
(神奈川県茅ヶ崎市東海岸6-6-64)
開催趣旨
昨今、作家たちが原稿を「書かなく」なっている。コンピューターのキーボードを打って「書く」のである―。万年筆や鉛筆で原稿を手書きする作家は、いまや「絶滅 危惧種」と珍しがられるほどですが、人気作家・浅田次郎は日本近代文学館・夏の文学教室でキーボードで「書く」と作品が⻑くなりがちな傾向を警戒し、「私は手書きを続ける」と講演を結んでいます。
ワープロで純文学作品を書いた最初の著名作家は開高健より6歳年⻑の安部公房。その「方舟さくら丸」(1984)から 40年、生誕100年にあたる今年、安部が残したコンピューターのファイルから未発表原稿が発掘されて話題になりました。
当時、安部は「文豪」というNEC製の初期ワープロを使っていました。ワープロの使用を安部から勧められた 11歳後輩の大江健三郎が「操作が面倒ですね」と敬遠すると、安部は「操作が簡単な『文豪ミニ』もある」と助言、大江は苦笑したというエピソードも伝わっています。その大江は手書きを貫き、ノーベル賞を受賞したのですが、開高もまた、生前にワープロがどんなに使いやすくなっても、原稿は自ら「六本目の指」と称した万年筆で書き続けた人でした。
開高の代表作である 1972年出版の「夏の闇」(新潮社)において、その削除・修正のない 400字詰め原稿用紙408枚の完全原稿は、2009年に「特別限定愛蔵版」として原寸大で複製、刊行されています。全編を著者の手書き文字で読み通せる⻑編小説の出版は、日本で前例がないものです。この奇跡的な出版は、いくつかの条件が重なって実現しました。まず作品の質が、戦後の日本文学を代表する傑作と認められていること。また、手書きされた408枚の本文原稿が散逸せず、編集者によって一括保存されていたこと、それに全編にわたって誤字脱字がほとんどなく、紙面が美しかったこと。潔癖症の開高は書き損じや直しがあると、それを破棄して新しい原稿用紙に初めから書き直しています。そして、本人は「夏の闇」の手書き文字による刊行など夢想だにしていませんでしたが、没後20年に奇跡が起こった最大の鍵は、開高の書き文字が持つ不思議な魅力でした。
開高健はどんな文字を書いていたのか。本企画展では「直筆原稿版」出版の金字塔ともいえる「夏の闇」を中心に原稿や手紙、色紙などを一挙に展示、開高自筆の文字を通してこの作家の成⻑と変容をたどります。今回、この「夏の闇」の複製版を会場で自由に手にとって読んでいただけます。
⻑編小説の執筆は壮大な建物をレンガで積み上げる、構想とヒラメキと忍耐の力仕事。⻤気迫る深夜の書斎で火酒をあおり、嬉々として文字と戯れ、己の文学の危機と格闘する孤独な作業―。あなたにもきっと新しい開高健の宇宙が見えてくることでしょう。